デザインのルーツを開示することについて

昨年末のことになるが、静岡文化芸術大学でJAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)の新人賞の巡回展がやっており、たまたま同大学図書館を利用した際に、見ることが出来た。3人のデザイナーのきれいなコマーシャルワークが展示されていた。

デザインでも、絵画でも音楽でもなんでもそうだが、どんな人であっても、「過去のどんな人の作品にも似ていない全く新しいもの」というのは、基本的には作ることが難しい。「過去のどんな人の作品からも一切の影響を受けていないもの」と言い換えると、それがどれだけ難しいことかが分かる。逆に言えば、何らかのベースがない限り、新しさというのは定義できないものなので、それが新しいというのなら、古いものが何なのか知っている、あるいは定義する必要がある。

誰もが何かから影響を受けて、何かを作っていくのだが、そのような、「この作品を作る上で、誰の、どの部分に影響を受けたのか」というルーツを知ることは、学びを得る上でかなり役に立つことだと思う。でも、そういう情報というのは、わりと隠されてしまっていることが多く、それによって、作品の理解のきっかけを損失してしまっていることがよくある気がする。

過去のいろいろな芸術家が、なにか新時代を作る作品を作ったときも、(あたりまえなのだが、)その主張は、「今までのものはコレだから古く、私が作ったものはコレだから新しい」という形式をとる。

例えばピカソがキュビズムを始めたときも、「今までの絵画はひと画面にひとつの視点しか入れてなかったから、私の新しい絵画はひと画面に2つ以上の視点を持つ」と言って、正面と側面のに2視点がくっついたような人物画を作った。学校で美術を習う際も、歴史を追うようにして芸術を教える(と思う)。ピカソが超天才だったのでいきなり最高に新しいものが出来ました、という説明ではなく、それまでにどんな絵画があって、どのような系譜でそこに至ったのかということは必ず説明される。というより、それが説明されるまで、少なくとも自分は、ピカソがどう凄かったのかというのをよく理解できなかった。

デザインについても同じことが言えて、何かトレンドになったレイアウト等を見た時も、それ単体のみを眺めているのと、それに至るまでの系譜を知った上で眺めているのだと、だいぶ見方が変わってくる。

そういう観点では、イギリスにいた際に行ったデザイン系の展覧会の中で、印象に残ったものがひとつあって、それは、SPIN 360という、ロンドンのデザイン事務所SPINの今までの仕事を集めた展覧会だった。

この人達の展覧会では、自分の仕事をただ紹介するだけでなく、自分が影響を受けた他のデザイン、自分のデザインの参照元を同時に大量に展示していて、むしろ自分たちの作品より、そういう先人たちの作品のほうが扱いが大きいくらいの勢いをもって、展示を組み立てていた。一応、個展のはずなのだが、個展というには全体に占める自作の分量がかなり少なかった。

でもその見せ方が自分にはとても面白く感じられた。レイアウトや文字表現の歴史がどういう風に進化していったか、そのうえで自分たちの仕事がどういう系譜に連なるものになるのか、歴史の中に自分たちの仕事を埋め込んでいこうとする意志がかなりあって、見る側にとっても、その人達がどういうものからデザインを学んでいったか、ネタ元が思い切り示されているので、その人達が何を新しく加えたのかが分かりやすかった。

正直、ほとんど過去の偉人のデザインをそのまま引用してるようにみえる作品すらあった気がするが、そういうのですら堂々と、ネタ元と自作を横並びで展示してあって、そのスタイルの普遍性を伝えているようで、清々しかった。それを見て、たしかに新しいものだけが価値を帯びるのでなく、すでにあった良質なものが失われずに受け継がれるだけでも価値があるとも思った。

誰もが誰かのスタイルから影響を受けていくものだが、この人達の展示は、それが2段階、3段階、それ以上に遡れるようになっていて、あくまで自分たちは無数の枝分かれのひとつというスタンスになっている。だから、あとからそれを見た人々に、まだ継がれていない枝の部分があることを感じさせて、その先の可能性を示唆しているところが、本当によい展覧会だったなと思う。。

1件のコメント

  • せきねたくぞう より:

    JAGDAの展覧会は俺も東京で見たよ。どれも良いなと思ったけど、中でも上西さんの仕事には度肝抜かれたよ。こんな子がいるんだと、コマーシャルなものでここまでやる人が(しかも若い子で)いるんだと戦慄しました(気になっていろいろ調べたら、ネットであーだこーだ書かれてたけど。エンブレム関係で騒がれてた頃だったから尚更)。そもそも同じ土俵にすら立ってねーけど、背筋ピーんとなりました。

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